ザクセン時計技術社グラスヒュッテ(SUG – Sächsische Uhrentechnologie GmbH Glashütte)
ザクセン時計技術社グラスヒュッテ (SUG – Sächsische Uhrentechnologie GmbH Glashütte) 高度な技術を駆使した時計ケースのメーカー
「グラスヒュッテ・ドイツ時計博物館」を訪れると、順路の最後に明るい部屋にたどり着きます。そこには、白を基調としたガラスの陳列ケースがいくつか並べられており、この地域の著名メーカーによる選りすぐりの時計が展示されています。説明パネルには各モデル・各メーカーの特徴が記載されていますが、展示品を見る人々が、突然はっと驚きの表情を見せる瞬間があります。そこにあるのは、とあるメーカーの製品。人々の目を引いたのは、完成品としての高級時計ではなく、高度な技術を駆使した時計ケースでした。そのメーカーこそが、SUG(Sächsische Uhrentechnologie GmbH Glashütte:ザクセン時計技術社グラスヒュッテ)で、グラスヒュッテの伝統豊かな時計産業を支える一員でもあります。
企業としての独立性を得る
SUG創設の経緯を見てみましょう。ロナルド・ボルトは“グラスヒュッテ時計会社(Glashütter Uhrenbetrieben)で働きながら、ケースのサプライヤーとも知り合うようになりました。そこで2つのことに気がつきました。この市場はかなり小さいし、製造品質という点で改善できるところがある、と。自分の手でやってみることはできないものか、と考えた彼は 1999年、2人のパートナー、――そのうちの一人はローター・シュミット――、とともに企業としての独立に踏み切りました。人生においてはよくあることですが、2つの幸運な出来事がそこで同時に起こりました。計画中の起業のためにビジネスパートナーを求めていたロナルド・ボルトに対し、質の高いケースをSINNに納入できる新しい取引先を探していたローター・シュミット。グラスヒュッテという時計業界の小さなビオトープの中で、2人はすでに顔見知りであり、意見交換が始まるまでに、さほど時間は要しません。布石は打たれました。
SUGの事業設備が2002年の大水害で大打撃を受けた後、手を引くことを決めた3人目のパートナーの出資分をローター・シュミットが引き受け、ロナルド・ボルトとローター・シュミットとの協力関係はさらに強くなりました。今日、ロナルド・ボルトは2人の関係を理想のチームと呼び、双方の変わらぬ情熱によって成り立つビジネス関係であると言います。2人ともエンジニアであるため、考えが合うというのも大きな理由の一つでしょう。人間的にも、仕事の面でもうまの合う2人です。現在、ロナルド・ボルトは会社を離れ、悠々自適の余生を楽しんでいます。その息子のダニエルは、既に数年前から会社に参画しており、社長として会社を引き継いでいます。
小ロットを柔軟に一社生産
こうした理由から、SUGは創設以来、SINN社にケースを納入してきました。ザクセン州に拠点を置き、小さな会社として発足したSUGですが、今では屈指のケースメーカーにまで成長しました。問題を解決する能力と生産品質において、欧州の業界トップと肩を並べる技術レベルを誇ります。今日では名だたる時計メーカーが、製造情報の厳重な秘密保持のもと、SUGに時計ケースの製作を依頼するようになった事実からも、そうしたことが伺えます。この成功は、SUGが長年の間培ってきた素晴らしい知識の証明でもあり、この知識こそが他には類をみない数々のソリューションを生み出しているのです。そして、もう一つの特長。それは、非常に柔軟な小ロット製品に、すべて自社一貫生産で対応してきたという点です。これには、設計、CNC加工、仕上げ、組み立てに至るすべての工程が含まれます。工程の最後には、顧客の希望特性を備えた、完全に組み立てられたケースが完成します。他のメーカーならすぐに諦めてしまうような課題にも着手し、これを克服するためには、豊かな経験に加え、創造力と情熱が欠かせません。これらすべてが備わっていたからこそ、現在まで、非常に難しい構造のケースをも量産体制に持ち込むことができたのです。「そう簡単に私たちを真似ることなど誰にもできませんよ」と言うロナルド・ボルトの表情からは、明らかにその実績への誇りが見て取られます。
金細工職人と道具職人の共同作業
上述の通り、同社のスタッフに作れないものなどありません。ただし、SINNのケースはその特徴において際立っています。プッシュボタン、リューズ、回転ベゼル、パッキン、裏蓋、チラネジ、ヒゲゼンマイといった一つひとつの部品から構成され、同時に、ステンレススチール、チタン、金などから作られる立体構造物でもあります。また、ダイバーズウォッチのように、潜水艦用スチールを使用したものさえあります。製作のために必要となるのは、独自の工具とテクノロジーだけではありません。ケースというものは、美しさと技術の両面を満たす必要があるからです。ロナルド・ボルトはこの状況を、こう上手く表現します。「金細工職人と道具職人が出会う場がケース製作です」。この職人的な共同作業の第1工程では、製作に使える、写真のようにリアルな3D設計図が、雛形をベースとして作成されます。調整・承認プロセスを経て、各部品と工具の設計図一式をロナルド・ボルトが作成し、第2工程でこれら部品と工具が製作されます。この第2工程についてロナルド・ボルトが語ります。「文字通り、付加価値の創造です。棒状、板状、円盤状の様々な材料やブランクから、旋盤やフライス加工により、部品が製作されるのです」。第3工程では、彼が「職人技」と呼ぶものが力を発揮します。仕上げ、つまりケース表面の研削と研磨です。「ここでは卓越した結果を出さなくてはいけません。卓越したものでなければ、それは不良品と同じだからです」。妥協を許さない、品質に対する非常に厳しい姿勢をこう表現します。最後に、最終組立工程において、各部品が完全なケースへと組み立てられます。そしてSINNに納入されるのが、耐圧性・耐水性の検査を受けた完成品としてのケースです。そこから、今度はフランクフルト・アム・マインで、高級特殊時計の完成に向け、次の工程が続きます。ムーブメント、文字盤、針、ストラップ/ブレスレットを取り付け、時計を完成させる、というだけではありません。テクノロジーを時計に組み込むという大切な工程があります。

創造性の限界を超えてSINNの時計ケース
SINNの時計ケースは一つひとつ品質検査を受け、一つひとつに独自の番号が与えらます。すべてのケースが世界に一つしかない作品です。組み立て後は耐水性を備え、繊細な時計内部の機構を埃や衝撃から守る使命を担います。しかしそれだけではありません。ロナルド・ボルトが「何度も繰り返される創造的な挑戦」と呼ぶものです。そこには、以下のような背景があります。SUGでは、パイロットウォッチ、ダイバーズウォッチという、SINNがプロのために特別に設計したモデルのためにケースを製作しています。ハイドロ、特殊オイル、Arドライテクノロジー、ディアパル、テギメント、マグネチック・フィールド・プロテクションといった各テクノロジーはもちろん、特殊結合方式の回転ベゼルや究極の耐圧性といった秀逸な特長を備える製品群です。つまり、SINN独自の技術的装備を搭載しているせいで、ケースの構造と製作には非常にやっかいな条件が課せられることになります。そこに標準的なソリューションなどなく、SUGの技術者たちは、常に新しい答えを見出さなくてはなりません。「こういった点で、SINNという会社はその名に適っていますね。なんせ「特殊時計会社」ですから」とロナルド・ボルトが語ります。ダイバーズウォッチ U2を例に取ってみましょう。潜水艦用のスチールでケースを作るという課題を与えられたメーカーなど、一体どこにあるでしょう。時計には全くもってなじみの無い素材です。さらに、特殊オイルやArドライテクノロジーを統合でき、耐圧性、温度耐性、機能においてゲルマニアロイド船級協会の厳しい検査基準を満たさねばならないというのですから、その挑戦が並大抵のものではなかったことが想像されます。
特殊時計たらしめるもの
SINNの時計ケースにおいては、上述したような技術的要件を満たすことが特に重要です。ケースは、ムーブメントを守るだけではなく、時計に取り入れられたテクノロジーが問題なく機能することを保証しなくてはなりません。そして、テクノロジーが目指すところは、机上での構造設計とCNC機械を使った生産工程がなければ実現することはできません。別の言い方をすれば、SINNの時計を特殊時計たらしめているのは、何よりも、SINNの開発部門と協力して製作されるSUGのケースなのです。「SINNの時計に用いられているテクノロジーの多くは、ケースの特殊構造がなければ実現できません」とロナルド・ボルトは説明します。例えばマグネチック・フィールド・プロテクションでは特殊な材質が使用されていますが、これはケースに特殊な性質が備わっていたからこそ実現できたことです。それがどのような性質であったのかは、もちろん秘密だそうです。
アイデアから量産へ
SINNで生まれたアイデアが、SUGで量産可能なケース技術へと変遷する過程を示すのに良い例が、D3システムの開発でしょう。時計技術におけるイノベーションとも言えるこのシステムでは、プッシュボタンのピンとリューズのシャフトが、ケースに開けられ、精緻に磨かれた穴で直接案内されており、そうすることによって、シームレスにケースを密閉することが可能になります(D3はドイツ語の「direkt」(直接)、「doppelt」(二重に)、「dichtend」(密閉する)の頭文字をとったもの)。D3システムによってリューズとプッシュボタンのガイド部がケースに統合されるため、横からの衝撃に強く、埃や水分の浸入を確実に防ぐことができます。「D3システムはシンプルかつ効果的な密閉ソリューションです。信頼性に富み、組み立てが簡単で、サービスでも扱いやすいシステムです。内部と外部の境界面が少なくなるため、密閉効果も高いのです。しかし、設計と製作にとって、このアイデアの実現は真の挑戦と言えるものでした」とロナルド・ボルトは語ります。

ケース作りにおけるブランド
今日、SUGは、時計業界にその名を知られ、ケース作りにおけるブランドとして広く認知されるようになりました。最高の精度で製造される製品は、特に専門家たちの間で、時計の高品質を証明するケースとして定評があります。ロナルド・ボルトにとって、この評価は、常に優れた製品を提供してきた過去の成果でもあります。「SUGにとって非常に重要なのは、時計業界でその名が知られているということです。プロの皆様が私たちの仕事を理解し、その価値を認めてくださること。そして、ケース作りにおいて原則としてSUGに不可能はない、と信頼を寄せてくださることです」。これは、グラスヒュッテ・ドイツ時計博物館において、SUG独自の展示スペースが設けられている事実にも見て取ることができます。今後は、さらに多くの人々が博物館を訪れ、「SUG」の3つの文字が何を意味しているのかを知ることになるでしょう。厳しい技術条件を満たすケースと、精密技術の分野において最高級とも言えるドイツ技術者の技。それが時計にとって最も伝統豊かな地域の一つに息づいている。それを表すのが「SUG」です。
ロナルド・ボルト
1947年生まれ。ライプツィヒで機械製作の職業課程を修了した後、ドレスデン工科大学で精密機械工学を専攻。1977~1989年、特殊機械の設計士として、旧東ドイツの人民所有企業であったグラスヒュッテ時計会社(GUB)に勤務。1990年からは同社で技術部門の主任設計士として代理権を与えられ、技術・品質管理の責任者としても従事。1998年12月、SINNオーナーのローター・シュミットとともにSUGを創設し、1999年4月1日から共同出資者兼経営責任者として企業を統率。現在、ロナルド・ボルトは引退し、SUG成功のため息子に後を託す。息子のダニエル・ボルト(1975年生まれ)は、既に創業時より会社経営に参加しており、学校教育と平行してドレスデン商工会議所教育センターで経営工学を学んだ後、SUGで大学教育の実務部分を修了。既に2012年9月1日以来、会社の事業執行者として活動し、特に販売領域と生産計画、生産管理に腕を振るう。父親の引退後は、一人でSUGの責任を担っている。